◆ 精神科虐待疑い 5年間で72件  厚労省初調査 病院から通報半数未満

精神科の医療機関で患者への虐待疑いの事例が2015~19年度の5年間で72件あったことが、8月31日までに自治体を対象にした厚生労働省の初の調査で分かった。病院側からの通報で把握したケースは半数に満たなかった。障害者虐待防止法は、障害者施設や雇用主による虐待については自治体への通報義務を定めているが、病院は対象外で実際にはもっと多いとみられる。

調査は、神戸市の精神科病院「神出(かんで)病院」で今年3月に元看護師ら6人が逮捕された事件(じんかれんニュース4月号で既報)を受けて実施。監督権限を持つ47都道府県と20政令指定都市に、虐待の態様や動機などを尋ねた。事案を把握していたのは31自治体だった。把握のきっかけでは、72件のうち医療機関側からの通報は35件(49%)にとどまった。残りは入院患者からの通報が11件、匿名の通報と行政指導の中での把握がそれぞれ8件などだった。虐待の内容(重複あり)は暴行が57件ともっとも多く、暴言14件、わいせつ行為7件などと続いた。動機は「不明」が30件と最多で、「患者からの暴力や暴言に感情的になった」が14件、「患者の指導無視」11件など。医療機関名や虐待した職員の職種、都道府県別内訳といった詳細は明らかにしていない。厚労省は調査結果を受け、自治体に対し病院への原則年1回の実地指導で職員や患者に虐待に関する聞き取りを徹底するよう求め、虐待防止マニュアルの作成や職員研修などを促している。神出病院の事件では、男性同士で無理やり、わいせつな行為をさせたり、ホースで水を掛けたりしたとして、元看護師ら6人が準強制わいせつや暴行などの罪で起訴された。発覚したのは病院の通報ではなく、1人が別の事件で逮捕されたのがきっかけだった。

厚労省初調査が公表されると、翌日には各メディアが一斉に報道いたしました。
今回の記事は、【解説】も含め、9月1日付神奈川新聞より全文を掲載いたしました。

《患者に暴力 死亡例も 「安易に身体拘束」と批判》

精神科病院では看護師ら職員による暴力事件が後を絶たず、患者が死亡したケースもある。

一定の条件を満たした場合は身体拘束が認められているが「安易に行われている」との批判も出ている。大阪府豊中市の「さわ病院」では2012年認知症の男性入院患者(当時79歳)が変死。男性看護師が布団を巻き付け窒息死させたとして逮捕。致死罪に問われ、大阪地裁は有罪判決を言い渡した。

14年には東京都立松沢病院(世田谷区)で、50代の男性看護師が複数の入院患者に暴行を加えるなどしていたことが判明。実習に来ていた学生が病院のアンケートに書き込み、発覚した。

千葉県では、15年、千葉市内の病院で男性患者に暴行し、のちに死なせたとして、県警が男性准看護師2人を逮捕。保護室のカメラ映像に様子が映っていたが、東京高裁は1人を無罪、もう1人も時効成立で免訴とした。17年には大和市の病院に措置入院していたニュージーランド人の男性(当時27歳)が10日間身体を拘束された後に死亡。遺族が記者会見で「非人道的」と拘束の不当性を訴えた。兵庫県では、元看護師ら6人が逮捕された神出病院の事件以外にも、今年8月、県立ひょうごこころの医療センター(神戸市)の40代男性看護師が、患者の顔を殴り骨折させたとして停職処分を受け、依願退職した。

【解説】

精神科病院の患者虐待を巡っては、障害者虐待防止法の通報義務を病院にも適用するよう求める声が以前からあるが、実現しておらず、表面化しにくいという問題がある。

2012年に施行された同法では、障害者が利用する施設や勤務先、家庭で虐待の疑いに気づいた人は誰でも市町村に通報する義務がある。同僚や雇用主の虐待を通報した場合、「解雇など不利益な取り扱いを受けない」と定めている。

法施行後、通報件数が増え、障害者の施設や職場では人権意識が高まり、早期発見につながっているとの評価がある。一方、病院や学校は「治療や指導との線引きが難しい」といった理由で通報義務の対象にならなかった。だがそうした事情は施設や職場でも少なからずあり、具体的にガイドラインを定めるなどの手だてを講じれば、病院などにも適用することは可能なはずだ。

精神科の患者の場合、証言の信ぴょう性が壁になることも多く、目撃した職員ら第三者が声を上げる重要性は大きい。再発防止のためには通報義務を明確に定めるべきだろう。

(じんかれんニュース2020年10月号より)

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